神戸地方裁判所 平成7年(ワ)278号 判決 1995年12月19日
原告
黒島文子
被告
天河茂
主文
一 被告は、原告に対し、金二八七万六六〇二円及びこれに対する平成二年一一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用これを一〇分し、その七を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、九六〇万一一四四円及びこれに対する平成二年一一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、信号機のある交差点を横断歩行中、被告運転の普通乗用自動車に衝突され、傷害を負い、後遺障害が残つたとして、被告に対して自賠法三条により損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 本件事故の発生
(一) 日時 平成二年一一月九日午後六時五五分頃
(二) 場所 神戸市中央区下山手通七丁目一二番一三号先交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 加害車 被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)
(四) 態様 歩行者用信号の青色表示に従つて本件交差点南詰の横断歩道を東から西に向かつて横断歩行中の原告に東行車線から同交差点を右折進行してきた被告車両が衝突した。
2 責任
被告は、本件事故当時、被告車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたから、自賠法三条により、本件事故により原告が受けた損害を賠償する責任がある。
3 原告の傷害、治療経過及び後遺障害
(一) 傷病名
頭蓋骨骨折外傷性聴力障害、両下腿打撲
(二) 治療状況
(1) 平成二年一一月九日に神戸みなと病院に通院
(2) 同日から同月一八日まで西病院入院
(3) 同日から平成三年二月一六日まで同病院に通院(実治療日数五日)
(4) 平成二年一二月一五日から平成五年二月一六日まで神戸掖済会病院に通院(実治療日数一七日)
(三) 後遺障害の内容、程度
(1) 平成五年四月一〇日に症状固定
右耳管狭搾、右耳鳴、両難聴(感音性)の障害
自覚症状として右耳鳴、眩暈感、軽度の難聴
聴力検査では左耳二六・七デシベル、右耳三五・八デシベル
(2) 自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一四級(以下、単に「何級」とのみ略称する。)に該当
二 争点
一 原告の後遺障害の程度
原告は一二級に該当する旨主張し、被告は一四級以上ではありえない旨主張する。
二 原告の損害額
第三争点に対する判断
一 原告の後遺障害の程度について
前記の原告の聴力検査結果では一四級に該当するともいえないし、本件全証拠によつても原告主張の一二級に該当することを認めるに足りる証拠はない
前記のとおり、自賠責保険において認定された一四級と認めるのが相当である。
二 原告の損害額について
1 治療関係費(請求及び認容額・五六〇円)
証拠(甲一、原告本人)によれば、原告は、平成三年八月一二日、神戸掖済会病院で本件事故による治療を受け、患者負担分として五六〇円の支払をしたことを認めることができる。
2 入院雑費(請求及び認容額・一万二〇〇〇円)
原告が西病院に一〇日間入院したことは前記のとおりであるところ、一日当たりの入院雑費は一二〇〇円が相当であるから、原告主張の入院雑費は是認できる。
3 付添看護費(請求及び認容額・六万円)
証拠(甲六、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件事故により入院した一〇日間、起き上がれない状態であり、担当の医師の明確な付添の指示ないしは許可はなかつたが、食事、トイレ、洗濯などをしてもらうため、実姉竹原ミエ子の付添看護を受けたことが認められる。
右認定によれば、右付添看護は相当であつたというべきである。
そして、一日当たりの付添看護費は六〇〇〇円が相当であるから、原告主張の付添看護費は是認できる。
4 休業損害(請求額・四〇万四七九三円) 四万四六一五円
(一) 原告が本件事故により平成二年一一月一二日から同月一九日までの八日間休職し、そのうち五日間有給休暇を行使し、その余は欠勤扱いになり、欠勤中の減給分が一万〇一五〇円、有給休暇行使分が三万四四六五円の合計四万四六一五円の休業損害を受けたことは当事者間に争いがない。
(二) 後記5認定のとおり、原告は、本件事故後の平成二年一一月二〇日に復職してから、本件事故を原因として休職したとはいえないから、同日以後は逸失利益による請求は別として、休業損害を認めることはできない。
5 逸失利益(請求額・四二五万三七九一円) 九九万九四二七円
(一) 証拠(甲七ないし一二、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。
(1) 原告は、昭和一七年九月六日生まれで、本件事故当時四八歳で、株式会社トリス珊瑚に勤務し、アクセサリーを作つたり、在庫の管理をしており、平成二年分給与所得額が二五一万五八九六円であつた。
(2) 原告は、本件事故により、平成二年一一月一二日から同月一九日まで休職し、同月二〇日から復職したが、本件事故による受傷による体調の不良が原因で稼働成績が低下したため、事故の翌年度から逐次給料を減額され、平成三年分給与所得が二五一万五三五〇円、平成四年分給与所得が二三七万七五六〇円、平成五年分が二二九万四六〇〇円であり、ついに平成六年四月二〇日付をもつて退職を余儀なくされた。
原告は、現在も、耳鳴等の後遺障害に悩まされ、再就職できる見込みはない。
(二) 右認定と原告の後遺障害の内容、程度、特に、他覚的症状はさほど顕著ではなく、自覚的症状が相当重いことなどによれば、原告は、本件事故により、一〇年間程度、五パーセントの労働能力の喪失が継続すると推測するのが相当である。
そこで、ホフマン式計算法により中間利息を控除して、原告の逸失利益の現価を求めると、次のとおり九九万九四二七円(円未満切捨)となる。
2,515,896×7.9449×0.05=999,427
6 慰謝料(請求額・四〇〇万円) 一五〇万円
原告の傷害及び後遺障害の内容・程度及び入・通院期間その他本件に現れた一切の諸事情を総合考慮すると、原告が本件事故によつて受けた精神的慰謝料は一五〇万円をもつて相当とする。
7 原告の前記損害額合計 二六一万六六〇二円
8 損害の填補
被告は、被告の付保する保険会社が原告に対し合計八万円を支払つた旨主張するが、証拠(原告本人、弁論の全趣旨)によれば、右支払は原告の本訴請求の対象外であることがうかがわれるから、右主張は採用しない。
9 弁護士費用(請求額・八七万円)二六万円
本件事案の内容、審理経過及び認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、二六万円が相当である。
三 まとめ
以上によると、原告の本訴請求は、損害賠償金二八七万六六〇二円及びこれに対する本件事故の日である平成二年一一月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとする。
(裁判官 横田勝年)